이세계약국 1권 1화

hiblue
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  1. 彼の成果は世界中で熱望され、世界中の人々彼の活躍に期待お寄せる
  2. 彼のもとには多くの研究者と仕事、そして研究資金が集まり、激務の中に身を役じていた
  3. デスクの上に並べ られたアラームの一つが鳴る
  4. "さて、自分の実験の時間だ"
  5. 昼も夜もなく大学の研究室に泊まり込むのは,いつからか彼にとっての日常になっていた.
  6. 苦くして准教授にまで出世してしまうと、研究者としてより教育者としての側面も求められる.
  7. 学生への講義も実習もあるし、研究指導者として学生の研究も見なければならなくなる。
  8. 教授からの課題も押し付けられ、会議も増え、教科書の執筆依賴, 学会への招待講演も斷れない。
  9. 共同研究もいくつも持ちかけられ、日本と海外お飛び回る。
  10. だが、彼はあくまで創薬研究の現場にいて、自分自身の研究に取り組みたかった。
  11. そこで、研究の時間が減ってしまった穴埋めに夜と休日お充てているのだった。
  12. そうやって血の滲むような努力で捻出した時間お使い彼の新薬開發が成功すると、また仕事は雪だるま式に増えてゆく。
  13. まさに彼は研究のため、かれの人生の全てお捧げていた。
  14. 自分の創った薬で、地球上からありとあらゆる病気おなくしたい。
  15. もっと、もっと、もっと人お癒したい。
  16. 飾りつ気のない彼のデスクに、たった一つだけフォトフレームが置いてある。
  17. フレームの写真の中で、海水浴お楽しむ九歳と四歳の兄妹が元気な笑顔お向けていた。
  18. そこに写っているのは、幼い彼自身と、そして彼の妹だった。
  19. 妹は四歳のとき脳腫瘍お患い、彼はその後の二年間、妹の鬪病お支えていた。
  20. 手術に放射線治療、抗がん剤の投与など辛い治療に耐え、最後には歩けなくなって意識が朦朧とする中、それでも懸命に病魔に立ち向かい、治癒お信じていた妹。
  21. だが、そんな彼女おあざ笑うかのようにがんは彼女の体お痛めつけ、生への気力奪い、そして彼女の未来お永遠に奪ってしまった。
  22. 少年だった彼は知識も力もなく、衰弱してゆく彼女おただ励まし、彼女に寄り添い、快復お信じ、彼女の手お取って看取ることしかできなかった。
  23. そうして彼女は亡くなった。
  24. 手術で脳の中のがんお取り切れなかったのだと、後に医師から聞いた。
  25. 取り切れなかったがんに薬が効かなかったのだ、と今は亡き両親から聞いた。
  26. 仕方がなかっだ、運が悪かった、と両親は諦めの言葉お述べた。
  27. 大人たちの言葉は、少年だった彼の心を奮い立たせた。『諦める?運が悪かった?』
  28. 手術で取れなかったとしても、飲むだけで効く薬があればよかったのではないか。
  29. 単純な解決法だ、と彼は思った。そして彼の中で、妹の死という出来事は人生の転機となった。
  30. 「ならば創ってやろ。副作用の少ない、これまでより少しでもよく効く薬を。」
  31. もうこんな思いはたくさんだ、大切な人を失い心を引き裂かれるような痛みを、他の人間が味わうのももうたくさんだ。
  32. 世界のあちこちで人々を蝕む病と、病がもたらす死というもの。
  33. 誰かに押し付けて逃れることもできない、一人一人の疾患との戦い。
  34. その戦いを真に手助けできる、気休めでなく真に患者に寄り添える、心強い武器を創りたい。
  35. 人が病気になるのは偶然であり運命かもしれないが、薬に効果があるのは必然でありたい。
  36. 自分自身が創薬の最前線に立って、世界中から病気を一つずつ駆逐してやろう。彼はそんな、薬学者としてはいささか不遜な理想を、今も途に抱き続けていた。
  37. 過労と激務によってたびたび体を壊し、気力を擦れ減らすたび、彼は妹の写真をぼんやりと眺め、存在しない妹の未来と彼女の幸福を想像する。
  38. 愚直に、ひとすじに、いつしか世界の最前線を突き進んできた薬学の道。疾患の撲滅と、人々の病苦からの救済。それは、彼の人生を賭けた闘争だった。
  39. とはいえ、患者のためをおもいながらも、彼は研究室や学会で大半の時間を過ごし、患者と直に接する機会を失って久しかった。
  40. 「お疲れさまです。先生はまた今夜も徹夜ですか。」彼と同じく深夜まで働いていた女性助教が、申し訳なさそうに声をかけ、帰りの挨拶をする。
  41. 「お疲れさま。ああ、そうだな。今夜は外せないんだ、新薬の効果を調べているからね、投薬後一時間おきにデータを取っている。」
  42. 「昨日もそう仰っていました。毎日外せないのですね。」
  43. 「まあ、うん。そうだな、仕方ないよ。」
  44. 「体を壊しますよ。学生や研究員も使って下に仕事を投げてください。薬谷先生のようにうまくはできないかもしれなせんが、それも教育の一環 ですし。」
  45. 「自分の体調は自分で管理するって。仮眠も取るし。一刻も無駄にできないんだ。」
  46. 彼は体裁が悪そうにあくびをして、伸びをした。部下に心配をかけるのは、あまりよくないことだと自覚してはいた。
  47. 「俺たちは薬学者なんだから」それを聞いた女性助教は心底心配したように、多少の諦めも混じった息をつく。
  48. 「私も薬学者として申し上げますと藥谷先生は働きすぎだと思います」
  49. 「ああ、分かってる、ありがとう。プロジェクトの区切りがいいところで、少し仕事を減らすよ」とはいえ彼は仕事を減らしただけ、また新しい仕事を入れるような困った性格だった。
  50. 「そうしてください。本当にそうしてください。」助教は彼を気遣っていた。過労をしているという、自覚がないようだったからだ。
  51. 「患者さんのためを思うと、どうしても結果を急ぎたくなってね。」彼はいつだってそう言う。患者さんのためだと。
  52. 「お気持ちは分かりますが、やりすぎです」
  53. 深夜の実験室の入り口に職員証を兼ねたカードキーをかざすと、電子音がして開錠される。個人認証を経て入室し、蛍光灯の下で一人、彼はぼ普段着と化しつつある白衣に袖を通した。
  54. 「患者さんのため、か」患者。彼は自分の口から飛び出し言葉に、漠然とした虚しさを覚えていた。
  55. それは彼にとって、いつも一番に考えているつもりでありながら、いつからか縁遠いものとなっていた。
  56. 彼が過ごしているのは患者ではなく夥しい量の薬品や装置と、地道な研究と向かい合う日々だ。
  57. (俺は、本当に患者さんのためを思ってこうしてるんだろうか。)
  58. 最新の機器を駆使し、遺伝子や生体物質から生のデータを解析し、より意味のあるものへと整理してゆく。
  59. (俺の造った薬は患者さんに届いて、その人たちを癒しているんだろうか?)
  60. 実験を終え、力の抜けた手でするりとプラスチック手袋を廃棄する。「三時四十分 終了、と。次は四時四十二分開始か」
  61. メモ用よう紙しが切きれていたので、右みぎ手首てくびに装置そうちの測定そくてい時間じかんを水性すいせいペンで書かいた。
  62. (患者と向かい合って話したのはいつ以来だっけ) そんな自問をいくつとなく重ねながら、後は白衣を脱ぎ、次の実験にスムーズに移れるように身分証を胸ポケットに突っ込んで、研究室のソファで寝袋にくるまり、いつもように仮眠につく。
  63. アラムは一時間後にセットされた。「ゆくゆくは、町の薬剤者にでもなるかな。体を壊さなければ。」
  64. 周囲から寄せられる彼への期待と、数年先まで埋まっているいくつもの研究プロジェクト、准教授としての彼の取り巻くしがらみが、しばらくはリタイアを許してくれそうにはなかったが。
  65. 一時間後、鳴り響いたアラームの音が彼を越すことはなかった。彼はその世界で、永遠の眠りについた。
  66. 死因は急性心筋梗塞、典型的な過労死だった。極限の生活はとうとう終わった。彼の肉体が限界を迎えたのだ。
  67. 薬学者でありながら、常に患者を思いながら、患者の傍にいることもなく、自らを養生することを忘れていた、彼が歩んだのはそんな人生だった。薬谷完治。享年三十一であった。